【第1章】 転生

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『どうしました、カイくん?』 いかにも心配そうなその顔を見上げ、睨んだ。背と体格の差がありすぎるせいで、多分効果はないんだけど、僕が不機嫌なのは伝わったらしい。 『すみません、説明がまだでしたよね。転生は、この穴を使って行います。穴の下には、転生先の世界の座標が広がっていて、そこからランダムに飛ばされます……もしかして、怖いんですか?』 穴を使って転生する、と聞いて、僕は本格的に頭を抱えた。地面(?)にうずくまる。白い床は、近くで見ると少し透明で、頼りない。そこに、不安そうな顔をした僕が映るのを見て、立ち上がった。笑って誤魔化す。かっこ悪いし。 「い、いや?怖いとか、そんな訳ないじゃん?(汗)」 軽く口笛を吹く感じで嘯く(うそぶく)。僕としては必死なんだけど、やっぱ天使って反則だ。変なノートを取り出して、ページを開いた。え、それ、今どこから出した? 『ああ、高所恐怖症でしたね』 多分、そのページは僕のプロフィールなんかが書いてあるんだろう。こいつ相手に誤魔化すとか、無理な話だった。人間じゃないもん。天使は、イケメン顏にはあんまり似合わない仏のような微笑を浮かべて、なだめるように言う。 『ご心配なく。転生するときには眠るようになってますから。』 まるで親と子供だ。腹が立たないこともなかったけど、仕方ない 。敵う気がしないから。 ーー完全に天使側の不注意でこんなことになったんだけど、あっちは忙しいみたいで、説明後すぐに転生することになった。 心の準備、追いついてないんだけど…。 『では、急かして(せかして)申し訳ありませんが、今から転生を始めます。こちらからの償いとして、先ほどもお伝えしましたが干渉しておきます。 穴に入る前には、眠るようになっているのでご安心下さい。 では、良い人生を……』 その言葉が最後だった。一瞬だけ、穴を見てしまって怖くなったけど、すぐに眠くなった。
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