引っ越したそこは……

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 階段を上がろうとすると、 「あ、お帰りなさい」 「ほ、帆香さん! た、ただいまです!」  帆香さんが階段を下りてきた。 「バイトだったんですか?」 「は、はい……」 (バイトで疲れてたけど、帆香さんに逢えるなんてラッキー!) 「帆香さんはこれから出かけるんですか?」  俺はスマホで時間を確認する。  時刻は二三時三四分。  電車の本数も減り、終電を迎えようとしている。 「ええ、友達がレポート見せて欲しいって言われて」 「でも、もう電車が……」 「今日は友達の家に泊まりかなって思ってます」  苦笑を浮かべて、肩を竦める。そんな姿も可愛いと思ってしまうくらい、俺は彼女に恋をしているのかもしれない。 (友達って……男なのかな?)  なんて疑問を持ったけど、訊けないヘタレだ。 「気を付けていってらっしゃい」 「はい、ありがとうございます!」  帆香さんが会釈をして、踵を返す。彼女の背中を見てから俺も階段を登ろうとした、その時。 「あ」 「え?」  何かを思い出したかのような声を訊いて、俺は振り返る。帆香さんと目が合うと、優しく微笑まれる。
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