〔一〕郡山

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〔一〕郡山

 クルマの前の席から聞こえる、お母さんと()(おり)の陽気な歌声で正直頭が痛い。  唄っているのは歴代のプリキュアのオープニング曲だ。  わたしは溜息と共に、抱いている柴犬のボンちゃんに額を押しつけた。 「クゥ~ン」  (きゆう)(くつ)なのかボンちゃんは身体(からだ)をモゾモゾと動かす。  本当は安全のためにもゲージに入れたいんだけど、本人が断固として入ることを拒否した。  普段は大人しいのに、何故かゲージを見ると親のカタキみたいに吠え始める。  保護犬だった彼には、ゲージにトラウマがあるらしい。  だから、わたしと叔父さんが交代で抱いてクルマに乗っている。  チラリと隣の席を見ると、叔父さんは物憂げに窓の外を眺めていた。  でも、わたしの視線に気付いたのか、こっちに顔を向けた。 「代わろうか?」  叔父さんはボンちゃんを受け取ろうと腕を伸ばす。 「だいじょうぶ」と応えて、わたしは顔をボンちゃんの背中に埋めた。  クロシバのボンちゃんは、頭や顔の周りの毛はモフモフして柔らかいけど、背中の毛はけっこう硬くてゴワゴワしている。  この毛もそろそろ冬毛に抜け替わるだろう。     
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