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クルマの前の席から聞こえる、
お母さんと紫織の陽気な歌声で正直頭が痛い。
唄っているのは歴代のプリキュアのオープニング曲だ。
わたしは溜息と共に、
抱いている柴犬のボンちゃんに額を押しつけた。
「クゥ~ン」
窮屈なのかボンちゃんは身体をモゾモゾと動かす。
本当は安全のためにもゲージに入れたいんだけど、
本人が断固として入ることを拒否した。
普段は大人しいのに、
何故かゲージを見ると親のカタキみたいに吠え始める。
保護犬だった彼には、
ゲージにトラウマがあるらしい。
だから、
わたしと叔父さんが交代で抱いてクルマに乗っている。
チラリと隣の席を見ると、
叔父さんは物憂げに窓の外を眺めていた。
でも、
わたしの視線に気付いたのか、
こっちに顔を向けた。
「代わろうか?」
叔父さんはボンちゃんを受け取ろうと腕を伸ばす。
「だいじょうぶ」と応えて、
わたしは顔をボンちゃんの背中に埋めた。
クロシバのボンちゃんは、
頭や顔の周りの毛はモフモフして柔らかいけど、
背中の毛はけっこう硬くてゴワゴワしている。
この毛もそろそろ冬毛に抜け替わるだろう。
わたし、
真藤朱理と妹の紫織、
母の遙香、
叔父の鬼多見悠輝と柴犬の梵天丸は、
母の運転する日産ジュークで千葉県八千代市の稲本団地から福島県郡山市の祖父の家へと向かっていた。
途中、
道の駅やコンビニで休憩をしたりしながら、
四時間以上かけて郡山までたどり着いた。
紫織は放っておくとズッと3DSでゲームをしているから、
お母さんが一時間おきぐらいに、
しりとりをしたり、
クイズを出したり、
デジタルではないゲームをやらせている。
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