〔一〕郡山

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クルマの前の席から聞こえる、 お母さんと()(おり)の陽気な歌声で正直頭が痛い。  唄っているのは歴代のプリキュアのオープニング曲だ。  わたしは溜息と共に、 抱いている柴犬のボンちゃんに額を押しつけた。 「クゥ~ン」  (きゆう)(くつ)なのかボンちゃんは身体(からだ)をモゾモゾと動かす。  本当は安全のためにもゲージに入れたいんだけど、 本人が断固として入ることを拒否した。  普段は大人しいのに、 何故かゲージを見ると親のカタキみたいに吠え始める。  保護犬だった彼には、 ゲージにトラウマがあるらしい。  だから、 わたしと叔父さんが交代で抱いてクルマに乗っている。  チラリと隣の席を見ると、 叔父さんは物憂げに窓の外を眺めていた。  でも、 わたしの視線に気付いたのか、 こっちに顔を向けた。 「代わろうか?」  叔父さんはボンちゃんを受け取ろうと腕を伸ばす。 「だいじょうぶ」と応えて、 わたしは顔をボンちゃんの背中に埋めた。  クロシバのボンちゃんは、 頭や顔の周りの毛はモフモフして柔らかいけど、 背中の毛はけっこう硬くてゴワゴワしている。  この毛もそろそろ冬毛に抜け替わるだろう。  わたし、 (しん)(どう)(あか)()と妹の紫織、 母の(はる)()、 叔父の()()()(ゆう)()と柴犬の(ぼん)(てん)(まる)は、 母の運転する日産ジュークで千葉県八千代市の(いな)(もと)(だん)()から福島県郡山市の祖父の家へと向かっていた。  途中、 道の駅やコンビニで休憩をしたりしながら、 四時間以上かけて郡山までたどり着いた。  紫織は放っておくとズッと3DSでゲームをしているから、 お母さんが一時間おきぐらいに、 しりとりをしたり、 クイズを出したり、 デジタルではないゲームをやらせている。
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