0人が本棚に入れています
本棚に追加
「先輩、これって……」
「ああ、故障だな」
「いや、そんな軽々しく言われても……そんなことあるんですか?」
「そりゃ、たまには故障もするだろ。お前もこれからウチで働くんならさ、これくらいのことは慣れてもらわなきゃ」
「はぁ……」
――――――――――――――――
店内の時計が22時半を回った頃のことだった。その日の仕事はいつになく暇で、実はこのコンビニが何かの手違いで時空転移してしまって、誰もいない異世界を漂っているのではないかと思えるくらいだった。だから品出しをしている最中に、入店を知らせるチャイムがなったときには、どんな異形の者が入り込んできたのかと思って、飛び上がりそうになってしまった。
「いらっしゃいませー」
と、一緒にシフトに入っている先輩が挨拶をする。俺も遅れて「いらっしゃいませー」と言いながら、レジのほうを振り向いてみると、白髪交じりの長髪を後ろで束ねた女性が、ホットスナックの什器の前に立っている。年の頃四十前後といったところか。他の商品は買わずに、揚げ物類だけ買っていくのだろうか。それならば、先輩も品出しをしている最中だし、自分はレジに立っておいた方がいいかもしれない。そう思い、レジのほうへ向かった。
女性は空になっている中華まんのケースをじっと見つめている。ケースの上には「故障中です。申し訳ございません」と書かれた紙が貼ってある。
「ねえ、これどういうこと? わざわざ肉まん買いに来たのに、買えないっていうの?」
と、女性が問いかけてくる。ああ、これはヤバい奴だ、と直感する。目が据わっていて、相手の話など一切聞いてやらん、という意思がにじみ出ている。
「はい、申し訳ございません。現在ケースのほうが故障してまして、商品が提供できない状況となっておりまして、大変ご迷惑を……」
「そんな言い訳はどうでもいいのよ! ここはコンビニでしょ!? お客の要望にすぐ応えられるようにしてなくて何がコンビニよバカバカしい!」
女性は声を荒げる。これは俺一人ではどうしようもない。それを察してか、先輩も颯爽とレジのほうへと駆けつけてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!