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「お客様、大変申し訳ございませんが、こちら機械が故障中でして、僕たちのほうでも見てみたんですけど直らないので、現在は商品をご提供できないんです。ご理解のほどよろしく……」
先輩はできる限り優しい営業スマイルを繕って、女性をなだめようと試みるが、その表情のすぐ裏側には困惑、緊張、苛立ちが張り詰めているのが見て取れた。
「そんな言い訳はどうでもいいのよ! ここはコンビニでしょ!? お客の要望にすぐ応えられるようにしてなくて何がコンビニよバカバカしい!」
女性はあいも変わらず似たような文句を繰り返すばかりで、こちらの言い分などまるで理解する気がないようだ。
「いえ、ですから……」
と、先輩が言いかけたところで、またしても女性が喚く。
「そんな言い訳はどうでもいいのよ! ここはコンビニでしょ!? お客の要望にすぐ応えられるようにしてなくて何がコンビニよバカバカしい!」
いや、これは「似たような」というレベルではない。まったく同じ文言を、まったく同じ調子で繰り返している。
「そんな言い訳はどうでもいいのよ! ここはコンビニでしょ!? お客の要望にすぐ応えられるようにしてなくて何がコンビニよバカバカしい!」
「そんな言い訳はどうでもいいのよ! ここはコンビニでしょ!? お客の要望にすぐ応えられるようにしてなくて何がコンビニよバカバカしい!」
「そんな言い訳はどうでもいいのよ! ここはコンビニでしょ!? お客の要望にすぐ応えられるようにしてなくて何がコンビニよバカバカしい!」
「そんな言い、そんな、そ、そそそそそそそそそそそ……」
女性の顔のありとあらゆる表情筋は、熟達のピアニストに連打される鍵のように、一定のリズムでビクビクと同じ動きを反復している。
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「先輩、これって……」
「ああ、故障だな」
「いや、そんな軽々しく言われても……そんなことあるんですか?」
「そりゃ、たまには故障もするだろ。お前もこれからウチで働くんならさ、これくらいのことは慣れてもらわなきゃ」
「はぁ……」
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