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「つきましたよ。起きてください。」
そこはファミレスだった。
「飯はいい。食欲がない。」
「ダメです。食べましょう。」
「ここで寝ている。お前だけ行ってこい。」
「お願いです。僕おごりますから。」
「そういうんじゃない。今は食欲がないと言っている。」
「お願いです。来てください。来てくれないなら僕もう、病院行かないです。」
「なに。」
「病院だけじゃないです。今後はお付き合いしません。」
「・・・・・」
「でも、来てくれるなら何も聞かずに、一生付き合います。」
「おまえ、誰に言っているか理解して発言しているんだな。」
「はい。」
「だいぶ賢くなったじゃないか。」
山波はいつもの通り口元だけでニヤリと笑った。
この顔を見たとき、鶴屋はしまったと思った。
後の項目は付け足すのではなかったと後悔した。
だが、時期に忘れるだろう、人は一つでも楽しみがあれば、残りのことは大概どうでも良くなるものだと鷹をくくっていた。
とにかくここでこの人を車から降ろすこと。それが鶴屋の今日の最後の任務だった。
中へ入ると、緑山が窓際の一番奥の席で、一人で待っていた。
鶴屋たちに気づくと手を振って合図した。
「山波さん。あの席です。」
山波は驚き足を止めた。
あの時、あんなに辛そうにしていた緑山がにっこり笑ってくれていて、本当は駆け出して抱きしめたいほどだったが、鶴屋がいた事に気づき、平静を装い席についた。
「もういいのか。」
「うん。だいぶ。」
山波は抱きしめたいとうずく両手をなだめるのに少し苦労した。
あまり近づくとその頬に触れ口づけしてしまいそうで、50センチほど間をあけて座った。
けれど、数十分も立つと、その間はすでになくなり、肩を抱き、もう片方の手は指を絡め、緑山の顔だけを見つめ、まるでこの空間には二人だけしかいないかのようにふるまった。
けれど、あっという間に時は過ぎて、鶴屋は引き離すように山波を連れて帰り、車の中で物言わぬ山波を横目に、かえって罪を作ったかのように思えて自分を責めた。
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