四、忠誠、山波の愛し方

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如月がいなくなってからというもの、授業は毎日のように山波が代理で講義に出た。 切れのいいてきぱきとした話し方、スピード感のある進め方は生徒たちの賛否を二分した。 その日の教室は黒板に貼ってあった1枚の写真で、始まる前からざわついていた。 写真に写っていたのは、先日、緑山を病院へ連れて行ったときの写真で、辛そうな顔の緑山と、それを大事そうに抱える山波が映っていた。 その写真を無言でとり、自分のノートに挟んで何事もなかったように授業を始めようとした。 「先生、ちょっと待ってください。その写真は無視ですか?」 生徒の一人が教室に響き渡るような声で言った。 「写真? ああ、ありがとう。」 たったその一言だけで、ごくごく普通に授業を進めて行った。 「先生、質問していいですか?」 「先生は同性愛者なのですか?」 「その写真の人、4年の緑山さんですよね。教え子とできちゃった感じですか?」 「授業に関係のない質問は受け付けない。授業を妨げる発言も許さない。 邪魔をする奴は出ていけ。」 そう言い切ると、ごく普通に授業を続けた。そして数名の学生が部屋を出て行った。 午後からの授業も学生の嫌がらせは続き、いつもは水を打ったような中に、山波の声だけが響く教室も、今日はざわざわと落ち着かず、生徒も山波も苛立っていた。 「何度も言わせるな、授業に集中できない奴は出て行け。」 そう言うと今度は教室に残った生徒のほうが少なかった。 それでもいつもどおり、平然と授業を進め何事もなかったように帰って行った。 「先生・・・・」 声をかけて来たのは雅だった。 「大丈夫ですか?」 「悪かったな。俺のせいでおまえにまで嫌な思いをさせてしまった。 教室であったことは緑山には内緒にして欲しい。」 「わかりました。でも、いずれは・・・」 「少しでも、少しでも収まるよう努力する。こうなることは予測できたのに、回避できなかった。 俺のミスだ。緑山を巻き込みたくない。傷つけたくないんだ。頼む。」 「わかりました。緑山の事は僕に任せてください。しばらく休むように言います。」 「すまないが、頼む。」 「それで・・・隼人の事、何か知りませんか。学校に何か知らせとか・・・・」
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