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「何も聞いてないが、調べておくよ。
俺と一緒にいると谷中も嫌な思いをするだろうから、あまり声をかけるな。
食堂にいる鶴屋というやつに手紙でも渡しておくから、あいつに聞いてくれ。」
そう言って教室からも研究室からも遠ざかった。
山波は今日、久しぶりに寮にいた。
周囲がうるさすぎて勉強に集中できないからだ。それだけではなかった。
ああいった類の話しはあっという間に広がり、その日のうちに学長の耳に入り、話しを聞かれるためだけに時間を割かれ、
自分の予定が変更されるのが煩わしくてたまらなかった。だがすぐ処分にならないのがまた厄介だった。
読もうと思って借りてきた本も、表紙をめくっただけで、目次にまでも到達してなかった。
「先生・・・・」
寮のドアをノックしてきたのは鶴屋だった。
「今日、予約の日ですよ。行きましょう。」
「あ・・・そうだった。また忘れるところだった・・・・」
今日の一件で如月のことを忘れかけていた。
今この燃え上がってしまった火の粉を、どうやって鎮火させるのかも手立てがつかないまま、さまざまな事を考え、答えが出ないままに次の問題が湧き上がり、を繰り返して頭の中はいっぱいだった。
「僕が運転します。今日は絶対間に合いますから大丈夫ですよ。」
「ああ・・・」
「先生、大丈夫ですか。しっかりしてくださいよ。」
「ああ・・・お前もやっぱり俺の事、軽蔑しているのか?」
「ぜんぜん。してたら来ませんよ。
それよりやっぱり僕の見込んだ先生だけあるなって思いました。
授業に関係のない質問は受け付けないって。かっこよかった・・・・
やっぱ、弟子にしてもらってよかった・・・って思いました。」
「まだ弟子にした覚えはないぞ。」
「そうなんですか?」
「お前24番だろ。」
「そうでした・・・・。」
「2学期では絶対に20番以内に入れ。できれば、200のついていない。」
「それは無理っす。」
学校のボロ車は、この間のことがあってから、カラカラと変な音がするようになっていた。
なるべくその音がしない速度で走ったが、山波はそれにイライラしているようで何度も腕時計を見た。それでも5時には充分、間に合った。
鶴屋が受付を済ませている間もずっと、山波は待合の隅から隅までを歩き回った。
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