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翌朝、山波はとても早い時間に、研究室にいた。
今日は緑山のことで学長に呼ばれていたのを思い出した。
授業もある。如月のところへ行きたいのにいけない。
夏休みも近い、テストの準備もしなければいけない。
仕事と心配事で頭の中の整理がつかないほどにくたびれていた。
研究室の入り口には嫌がらせのビラや緑山と写っている写真が山のように貼られていた。
馬鹿げた事と思いながらも、誰かに見られたら、きっといつか緑山の耳に入る。
その前に解決したい…解決しなければ・・・
気持ちばかり焦るが、何もできてはいなかった。
入口に貼られた書かれた紙を1枚ずつ剥がし、写真を拾って中へ入ると、それを1枚1枚シュレッダーにかけた。
二人で写った写真は生徒には嫌がらせのネタでも、山波には大切な思い出だった。
写真は捨てることができず、ノートにはさんで引き出しに入れた。
その日の授業には鶴屋一人しか出席してなかった。
それでも平然と授業を始めだした。
「山波さん、・・・山波さん。大丈夫ですか?」
「ああ。」
「大丈夫に見えませんよ。まったく。」
「・・・そんなことはない。続きするぞ。」
「如月教授のところへ行くんじゃないのですか?」
「・・・」
「昨日、隼人君に言っていましたよね、連れて帰るって。行かないのですか。」
「ああ。」
「行きましょうよ。今から。」
山波は話すことをやめた。
言葉を失ったというほうが正しい。しばらく何も言わず答えが出ないまま考えた。
「行きましょう。今すぐ。」
「いや、今日は学長に呼ばれていて、緑山の事もあるし。だから週末に一人で行く。
おまえはいい。第一、授業はどうする。」
「明日は授業ないです。明後日も午後からだし。
第一、今日だって僕一人じゃないですか。
それに・・・週末まで生きていますか?」
山波は又言葉を失った。
今、鶴屋の言ったことが山波の出すべき答えであると気づいた。
「緑山は・・・」
「緑山さんは谷中さんに任せましょう。それにあの人はそんなに弱い人じゃないですよ。
自分が好きになった人もう少し信じていいと思います。」
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