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「最初からそうやっておとなしく言うことを聞いてくださいよ。
まったく、こどもみたいなんだから・・・どこへ向かったらいいですか?」
「福井だ。」
「わかりました。じゃあ、近づいたらおこしますから。
それと、寝てしまう前に緑山さんに電話してくださいね。
昨日、何回かけても出ないからって心配して僕のところにまで電話がかかってきました。」
「わかった。電話はする。おまえは絶対聞くな。耳を塞いでいろ。」
「え?・・・・」
緑山の声を聞いているひと時だけが、最高の幸せの時だった。
切った後は、寂しさと悲しさでなんとも言えない辛さを感じていた。
楽しい話だった時は、それが何倍にもなって帰ってきた。
守らなければ・・・何としても。緑山も如月も隼人も・・・全部。
緑山に初めてキスしたとき、どんな困難でも引き受ける覚悟はできていたはずだった。
「俺はただの臆病者だな。」
「え?」
「いや、なんでもない。少し寝る。」
山波はまたあの夢を見ていた。最近よく見る夢だ。
教授の屋敷の離れの窓から見える、あずみがハシャギ緑山が手を振る、その横で笑う如月の父親と、少し離れてつまらなそうな顔でそれを見る如月の姿。
山波が羨ましくてたまらなかった家族の姿。そして如月の父親からの「如月を頼む」と繰り返される声が耳の奥で響いていた。
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