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「そうですか。
如月さんともっとお話ししていたいですけど僕にも仕事があるので、
この人たちはちゃんとしたお医者様だから安心してください。
チョット眠くなるだけです。」
「何をするつもりだ。」
「今は言えません、知らない方が幸せでしょう。それでは・・・」
如月はそのままベッドに吸い付くように眠った。
薬の効き目というよりは、今日までの疲れがドッと出たといったほうがただしい。
気持ちよくとまではいかないがぐっすりと眠って夢を見ていた。
いつもどおり大学で講義して、研究室で仲間に囲まれている夢。
その中には山波も緑山も雅もあずみも隼人もいる。
つい数ヶ月前に送っていたなんでもない日々の生活だった。
その夢は、山内和人が揺り動かして覚めた。
現実は恐ろしい形で如月を襲った。
「思ったより薬が効きすぎてビックリしましたよ。」
「・・・なんの薬だ・・・」
ベッドに横たえたまま、虚ろに聞いていた。まだ半分は夢の中にいた。
「それはただの痛み止めですよ。
気分もとても良くなって・・・まだ試験中なんですけどね。
ただ、欠点がひとつあって、常習性があるんですよ。
1本打つだけでかなりの。だから、あなたはもう僕から逃げることができない。
ここにしかこの薬はありませんから。」
教授は細い指で点滴の跡を触った。
「ひょっとして・・・あずみも・・・か・・・」
「さすがですね。お察しがいい。
いい犬にはいい餌を与えないとね。そして、あなたも・・・です。
今ならまだ間に合いますよ。1本くらいなら、常習性を緩和できる薬があります。
山波さんを呼びますか?」
如月は横を向いた。
ほんの少しだけ外が見られる細長い窓から外を見た。
今は昼なのだろうか、青空に白い雲が浮かんでいるのが見えた。
「あずみとは隼人は?」
「昨日のうちに出発しましたよ。隼人の運転だから、そんなに早くはないでしょうけれど、そろそろ着くころですかね。」
如月は笑った。山内和人が驚くほど笑った。
「そうか、二人とも行ったか・・・なら約束だ。私を苦しめたらいい。」
「わかりました。山波さんは優秀な方だから、あなたに聞かなくてもきっとここがわかるでしょうし。」
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