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いろいろ聞かれることにわずらわしさを感じ、場所を移動しようとしたが、足もとがふらつき、崩れ堕ちそうになり看護士に支えられた。
「危ない。僕につかまって。ゆっくり行きましょう。」
「ありがとう。」
とてもここちよい風が吹いていた。
かと、思うと急に強く風が走り、手帳の中の写真が風に攫われて行った。
「僕が探してきますから、あそこのべンチに座っていてください。」
如月は、陽の当たるべンチに体重を預け、深くため息をついて空を見上げた。
太陽はだいぶ西に傾いていたが、悔しいほどに美しい青い空が広がっていた。
その青空に手を伸ばし見上げた。
「ごめんなさい。ここは陽が当たってまぶしかったですね。」
「いや、太陽の光は好きなんだ、キラキラ輝いて美しい。手のひらを太陽にむけると太陽を触っている気持ちにならないか?手の輪郭が赤くて燃えているようだ。」
看護士も同じように手をあげた。
「ほんとだ。今まで考えたこともなかった。」
「この指の間からこぼれてくる太陽の光も暖かくて気持ちいいだろ。
地面があって太陽が輝く、当たり前と思っている事は何億年も繰り返されていて、今、私たちがこうして何億年前と同じ太陽の光を浴びていると思うと、とてもしあわせな気持ちになって、生きていることがとても嬉しくなってくるんだ。」
「素敵ですね。僕もなんだか幸せな気持ちになってきます。
暖かい・・・・
あ、これ、写真。家族写真ですか?これが如月さん?」
看護師が写真に指をさして言った。
「ええ、昔の写真です。」
「こちらがお父さん?」
「はい、父と弟です。これが最初で最後の家族写真なんです。」
「コッチの写真は・・・あれ、二人とも笑っていませんね。」
「彼は山波。いまは私の部下でね。まだ出会ったばかりの頃かな。
とても優秀な男でね、いつも助けられてばかりいるよ。
父がどこかから連れてきて、ずっと兄弟のように暮らして来たんだ。」
「この人に連絡を取って迎えに来てもらったらどうですか?こんなところにいてはいけない。ここがどんなところか知っていますか?」
「ありがとう。もういいんだ・・・もう戻ります。君も、私にあまり関わらないほうがいい。」
如月はふらふらと立ち上がり、壁伝いに歩きかけたとき、少しの安堵の時は終わった。
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