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「お兄様、この方、僕を走らせたんですよ。しかも全速力で。」
「山波さん、足が速いから・・・でもあずみ君も足が速くて・・・あずみ君が捕まえたんですよ。山波さんを。」
「そうか。」
「スニーカーってびっくりですね。思った以上に早く走れました。」
「そうだね。いっそ、スポーツでもやってみたらどうだい。」
「お兄様、その期待は迷惑です。」
「そうか」
「緑山さんもどうですか?山波さんと一緒にご飯。」
緑山は一瞬、向き直って笑みを浮かべた。
しかし、鶴屋のその奥の顔は一つも笑っていないことに気が付いた。
「いや、則夫には遠慮してもらおう。価値観の違うものと食事をするとお互い辛いだけだ。」
如月は緑山の顔も見ずにそうきっぱりと言い放った。
「え、でもそんな・・・」
鶴屋は困惑した顔で、如月と緑山の顔を交互に見た。
「だな・・・今日は帰るよ。」
緑山は部屋を出て行った。
あの時、あそこを出た時にもう、戻れないと頭ではわかっていた。
けれど、心のずっと奥のほうで、何かを期待し、ぬくもりを求めて知らずに足がここを向いていた。
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