六、真実、それぞれの愛の終わり方

31/40
前へ
/192ページ
次へ
「今会ったばかりじゃないですか。まだチョッとくらい・・・」 「鶴屋、送るな。」 如月は鶴屋を止めた。 「いや・・・でも。」 鶴屋は緑山を追った。 「緑山さん、緑山さん。」 車の窓を何回か叩いたが止まろうとしなかった。 そのまま急発進して車は出て行った。 「教授、かわいそうじゃないですか。」 そんなことは如月が一番わかっていた。 自分でも冷たいことを言ったと反省していた。 だが、山波の心中を考えるとこのまま合わせていいのか、複雑だった。 「せっかく会うチャンスだったのに。」 「チャンスか・・・別れる決心をした奴らに、そんなチャンス与えて何になるんだ。」 「何に、って・・・」 「そんなことしなくても会いたければ探して会いに行くだろう。子供じゃないんだ。」 「でも後悔しているんじゃないかと思って。」 「たとえそうであっても自分で決めさせろ。力を貸せば傷を深くするだけだ。」 「相当悩んでいるっていう顔してたもんな。」 雅にも緑山の辛さは理解できた。 「悩めばいいさ。どちらの答えにたどり着いても、どっちみち後悔する。 あとは捨てる勇気を持てるかどうかだ。」 その捨てるものは相当大きいことを如月は知っていた。 そうしなければ緑山の本当に欲しいものは手に入れられないからだ。 如月の体の奥の引き裂かれた古い思い出という傷が痛み出した。 緑山が自宅に戻ったのは、とうに日付も変わり、街のすべてが寝静まったような時間だった。あてもなく車を走らせてかなり遠くまで行った。 何をやっても充実感が得られなかった。 どんないい服を着て、どんないい車に乗ってどんなに走らせても、折れてしまった心を直す術もなく、一人で苦しんでいた。 スーツを脱いで、裸で冷え切ったベッドに一人きりで入る。頭まで毛布をかぶり、丸くなって声を押し殺して泣いた。 緑山が学校をやめたのは、山波にやめて欲しくなかったからで、あの大学に行けば山波に会えて、いつかは如月と雅のような、少し距離を置いて共に歩むことができる関係になれればと思っていた。 だが、深く、深く愛し過ぎて自分の気持ちに蓋をして作り笑いで日々を過ごす自身がなかった。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

212人が本棚に入れています
本棚に追加