六、真実、それぞれの愛の終わり方

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遠く離れて過ごす山波も、緑山と同じ思いを抱いていた。 仕事をする、腹が減れば飯を食べる。 だが、生きることに一番大切な何かが足りていない、虚無感を抱いていた。 それを埋めるものが何なのかもわかっていたが、頭の中で否定し続けた。 そして何度も自分自身に言い聞かせた。これでよかったのだと。 翌日午後、祖父が緑山のオフィスを訪れた。 オフィスというだけで、仕事はなかった。 最上階の角部屋、イタリア製の高級家具で飾られてはいたが、中身はからっぽの牢屋で、毎日退屈で死にそうだった。 「則夫、元気にしているか。」 「お爺様、お久しぶりです。」 「いいオフィスじゃないか。」 「ありがとうございます。」 そうは言ったが、祖父にもわかっていた。 緑山はただ綺麗に飾られただけの人形だという事が。 だが、この一族にはその人形がとても重要だった。 「今日はおまえの縁談の事で来た。」 「お爺様、僕はまだ二十一ですよ。」 「私も、おまえの父親も、おまえの今の年にはもう結婚していた。 この家に生まれた者は皆そうやって、この家を守ってきたんだ。 なにもすぐ結婚しろというわけではない。だが、婚約は絶対だ。」 祖父はそれだけを言うと席を立った。 「断ることはできないのですよね。」 「おまえに選択権はない。ただ決められた運命に従っていればいいんだ。」 祖父が部屋を出ると、やりきれない思いで、机の上の書類を破き、床に撒き散らした。 どうせ、重要な書類など一つもない、紙1枚にさえ、まともなサインをする事もない、 そんな自分に与えられた初めての仕事が婚約することだなんて、 そのために自分は大切なものを捨てて来たのかと思うとばかばかしくて、悔しくて我慢の限界だった。
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