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「則夫、やってしまったようだね。」
しばらくして、緑山はたまらず如月を訪ねた。
「香水が・・・たまらなくて・・・」
「わかるよ。どんな美しい香りでも、女性の品格に比例していないと攻撃的になるからね。」
如月は紅茶を緑山の前に出した。
頬杖をつき、上の空の緑山が見ているものは紅茶ではないことがすぐわかった。
「ほかに何があった?」
「いや、何も。」
「本当か?
私には君が、アポロンを見つめるレウコトエのような目をしているように思えるけれど、気のせいだったかな。」
「今日はコレを渡しに来ました。」
「コレは?」
「僕の婚約パーティーの案内です。」
「君の母上から、付き合いを拒絶されたところだったのだけど。」
「あなたには、僕が断頭台に上がるところを見届けてほしい。」
「断頭台か・・・勇ましいね。必ず出席するよ。紅茶が冷める。早く飲みなさい。」
「ミルクティですか。やめときます。気持ちが揺らぐ。」
緑山は結局、如月と一度も目を合わせることなく帰って行った。
「則夫さん苦しそうでしたね。」
「汐田君、心配ないよ。則夫の病は来週には治る。」
如月は緑山が残した紅茶を手に取り、庭を見ながら一口飲んだ。
「そうだ汐田君、鈴木さんに離れを綺麗に掃除するように言ってくれ。
壁紙も張り替えて、カーテンもベッドも買い換えるようにと。」
「カーテンは何色がいいですか?」
「黄色がいいかな。ヒマワリの色だ。」
如月は庭に出て、太陽に手をがざした。
生きていることはとても楽しくて本当に飽きないと思っていた。
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