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緑山は、日曜日の婚約パーティーのために新しくスーツを仕立てに行った。
今度はあずみも雅も連れ立って英国製シルクリネンの上質な生地で、今週末までにという無茶なオーダーで請求も相当な額だったが、カードで簡単に済ませた。
その後は靴屋で、一番高いものを3足買った。そこでも支払いはカードを出した。
「こんなにしてもらっていいのか?」
「どうせ僕の金じゃない。」
「だったら僕はドレスがよかったな。ビスチェタイプの背中がたっぷりと開いた。」
「これからは男の子の洋服を着ますと、あずが宣言したんだぞ。
誰もそうしろとも言ってないのに。」
「だって・・・今回のことではお兄様に迷惑をかけたから、僕が男の子の洋服を着たらお兄様が喜んでくれるかなぁと思って・・・」
「あの人は、あずが一年中水着でも何も言わないよ。あずがあそこにいればそれでいいんだ。」
「そっか・・・じゃあ、やっぱりドレスを買ってください。」
「わかった。一番高いのを買ってやる。」
「大丈夫か?おまえ。こんなことばかりやっていて。」
「婚約するまでは誰も何も言えないんだ。ぼくには。
メシでも食って帰ろう。
何がいい・・・中華がいいか?あずも中華好きだったよな。」
雅にはワザと大きな声を出してはしゃぐ緑山がなんだかとても寂しそうで哀れに思えた。
「おまえ仕事はいいのか?」
「会社の中にある僕の部屋は、すべてイタリア製の家具で揃えられる。
日当たりのいい、見晴らしのいいところさ。
そこで朝9時から6時まで、何もしないでただすわっていることが僕の仕事だ。」
緑山は笑ってはいたが、雅には泣いているように見えた。
雅も山波が襲われた事件の後、大学を辞めて会社に入るようすすめた手前、緑山の現状を申し訳なく思った。
「親があまりにもしつこく言うから、よっぽど人手不足なのかと思ったら、
こんな事だったなんて・・・違うな。
僕がそれを口実にあの人から逃げた。
バチが当たったんだな。」
「何か俺にできることはないか?」
「今のところ何もないよ。ただ・・・友達でいてくれ。」
「わかった。今度は俺がおごるよ。」
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