六、真実、それぞれの愛の終わり方

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緑山はとりあえず、山波の会社の傍のスーパーでアルバイトをすることにした。 人間は腹が減れば必ず食べるものを求めて買い物にくる。 山波だって例外ではないと思って初めてみたが、荷物は重いし手は荒れるし、 レジの扱いにもなかなか慣れず、夕方の混み会う時間はいつもベテランのレジ係に怒られてばかりいた。 バスで乗り継いで通っていたが、帰りは疲れてバスの中で眠ってしまい、乗り越してしまうこともしばしばだった。 それでも、なんだか毎日が、充実して生きている実感が持てた。 そんなことを1ヶ月ほど繰り返し、ひょっとしてこの店を山波は利用しないのかもしれない。そろそろ店を変えようと思った日に山波が現れた。 緑山は、レジを閉めて駆け寄りたかったが、閉めるタイミングをもたついて、 自分の列に人がたくさん並んでしまった。 仕方なく自分の仕事を繰り返したが、ほんの一息にでも背伸びをして山波の姿を探した。 けれど、目で追うだけで見失ってしまい、そのまま見つけることができず、 半ば諦めていた頃、ふとレジの前に立った人に視線を合わせた。 山波だった。 山波もまた、俯いてレジに並んでいたが、 「いらっしゃいませ」の短い言葉が、なぜか聞き覚えのある懐かしい声のような気がして、その声の主を探して顔を上げた。 二人はやっと見つめ合った。 だが、ほんの数秒で目をそらした。あんなに会いたくてたまらなかったのに、いざ会うと気持ちばかりが先走り、顔が熱くなり、手が震えてきた。 なんとか平常を装いレジをはじめた。 「今日はカレー?」 もっと別のことがいいたいのに、なぜかなにも思いつかなかった。 たとえ思いついたとしても、長く話をすると涙が出そうで無理だった。 「ああ。」 山波もまた、同じ気持ちだった。 一人暮らしで、さほど買い物かごに入っておらず、ゆっくりとレジをやっていたがそれにも限界がある。 何かを言わなければ・・・そう思いながら、最後の一品をレジが通った。 「僕もカレー好きなんだ。」 「そうだったな。」 「・・・僕の分もあるのかな。」 「・・・たくさん作るからな。」 「ごちそうしてくれる?」 「ああ・・・。」 「どこへ行ったらいい・・・?」 「何時に終わる・・・。」 「9時。」 「迎えに来るよ。」 「うん。」 「自転車しかないぞ。」 「うん。」 「泣くな。あと2時間だ。頑張れ。」 「うん。」
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