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三、あずみの悪戯
「来たわね。」
あずみは今日も見下したような目で隼人を迎えた。
胸に大きなリボンのついたアメリカンスリーブのワンピースは色の白いあずみにとても似合って、妖艶な魅力を放っていた。
「じゃあ、まずは国語からはじめようか・・・」
隼人があずみの部屋に入って、机に向かって歩き出すと、
「バタン」とワザと大きな音を立てるように扉を閉めた。
「びっくりした。そんなに強く閉めたら壊れちゃうよ。」
「だって、強く閉めないと聞こえないでしょ。」
「誰に?」
「誰にって、お兄様と雅さんに決まっているでしょ。」
「どうして?」
「合図だよ。扉を閉めましたから、始めていいわよっていう合図。」
あずみは呆れ顔で机の前に座り、ノートを開いた。
唖然としていた隼人も、あずみの隣に座ってカバンの中から参考書を取り出した。
「合図?始めるって・・・」
「ハア、あんたこの間の賭けの話、忘れた訳じゃないわよね。」
「忘れてはいないけど・・・」
「けど何よ。今さら。」
「勉強をしようよ。
二人のこと疑ってばかりじゃなくて、勉強するためにここへ来たんだし。
ちょっとは・・・」
「ちょっとはするわよ。ちょっとくらいわ。でも、今日のメインイベントは二人がやるかやらないかよ。
もし、やらなかったら勉強くらい、血反吐吐くまでやってやるわよ。
どのくらいで見に行けばいいかしら?・・・1科目1時間だから、十五分後くらいに見に行くのが良さそうだね。
楽しみだね。」
机に頬杖をつきながら開いたノートに『十五分』と書くとぐるぐるとまるを書きづつけた。
楽しみという割には微笑みもせずに、冷たい目をして少しため息交じりで。
そんなあずみを見ながら、隼人はただ途方にくれるしかなかった。
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