一 谷中雅の新しい恋人

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絡ませた指を隼人の口に押し込むと、 暖かで柔らかな舌が震えながら指の輪郭を何度もなぞったあと、手の甲の血管をたどり、手首に下唇を押し当てると雅の時計を外し隠した。 「気持ち悪い?」 「イヤ・・・」 「ウソだ・・・・」 今までに味わったことのない甘く柔らかな唇が隼人の唇に優しく重なると、時間も忌わしい過去の記憶もすべてがかき消され醜くい傷があったことも忘れ、雅の腕の中で小さな金魚のように優雅に暴れた。 可愛いらしくか細い鳴き声をあげながら。 ベランダの閉め忘れた窓から入る冷たい風に起こされ、やっと朝日が覗くくらいの時間に目が覚めた。 まだそんな時間なのに、隼人の姿はそこになかった。 雅は隼人を抱いた後、ベッドには戻らず、一人キッチンでワインをあけ、そのまま居間のソファーで眠ってしまった。 隼人がかけたのか、雅には覚えのない毛布がかかっていた。 だが、冷たい風は毛布の暖かさもかなわないほど、首筋から指先から、体温を奪った。 今も図書館の窓から待ち続けるその人への思いを断ち切れぬまま、ひと時の感情だけで隼人と関係を持ってしまった罪悪感が冷たい風となって全身を刺す針のように感じた。
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