SS2「春の戯れ」【1】 SIDE三井(遥)

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 墓参りの前に、かつて所属した大学の事務局を訪ねてあった。予想はしていたが、遥の名前はすでに学生名簿から消えていた。退学や休学ではなく除籍という扱いで、三年までの履修を証明することもできないと言われた。無断でいなくなり、学費を滞納し、一切の連絡が取れない状況が続いたのだ。八年も。仕方がないこととだと諦めて、改めて通常の大学入試を受けることを決め、その報告に訪れたのだった。  書類を整え願書を出し、秋からはセンター試験と国公立の二次試験に向けた本格的な勉強を始めた。  その頃から、蓮見は遥に触れなくなった。  常識人で、シンプルに物事を考える蓮見は、遥の勉強を邪魔したくないと思ったのだろう。それは、わかる。  遥を未だに、性的なことに不慣れな、強い性欲など持つことのない初心者だと考えていることも想像できた。だから、自分が我慢すれば何も困らないと思っているのだろうということも。  確かに遥は、最初は何も知らず、戸惑いもしたし必死だった。けれど少ない経験からでも、覚えさせられた悦楽は確実に遥の中に根付いていた。蓮見から与えられる全てが愛しく、心だけでなく身体の隅々まで、何もかも変わってゆくことを嬉しく思った。  身体を重ねるたびに悦びを感じていたし、奇跡のように大切に思っていたし、失いたくないと、もっと、いつまでも一つになっていたいと願うようになっていた。  だから、本当は寂しかったのだ。  勉強はしっかりやっている。時々でいいから抱いてほしかった。  けれど、年下の蓮見に気遣われると、遥のほうからそれを口にすることが、なんとなく躊躇われた。そして結局、そのまま春まで、ほとんど肌を触れ合わない日々が過ぎてしまったのだった。  年末に一度、蓮見が持ち帰ったサンタクロースの衣装――それも女性用のミニドレス――を、酔った勢いで「着てみて」と言われ、ほんの出来心でそれを身に着けた時が最後だ。あれきり、年末年始、一月のセンター試験、二月末の二次試験が終わるまで、蓮見はとうとう遥に触れなかった。
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