SS2「春の戯れ」【2】 SIDE蓮見 ※R18

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SS2「春の戯れ」【2】 SIDE蓮見 ※R18

 金曜日の夜、仕事はまだ残っていたが、どのみち翌日の土曜日も出社しなければならないだろうと考えて、蓮見は早めに事務所を出た。  遅くまで開いているケーキ屋を見つけ、ショートケーキを二つ、白い箱に入れてもらう。  先週、ようやく三井の試験の結果が出た。無事に合格したのを確かめると、蓮見自身もホッとしたし、本当に嬉しく思った。  それなのに、まだそのお祝いをしていないのだ。  ただでさえ忙しい年度末に、先週は姉の結婚式が重なった。それも大事な祝い事だし、三井がどうしても姉や両親の希望通りにしてきてくれと言うので、それに従った。生まれ育った家に帰ることも、家族と過ごすこともできない三井が、蓮見に家族を大事にしてほしいと言うのだ。従わないわけにいかなかった。  それでも、今の蓮見が一番に祝ってやりたいのは、三井のことだ。  今夜こそ、ささやかでもいいからお祝いをしたい。そして夜は……。 (さすがに、もういいよな)  想像しただけで頬が緩み、下肢に熱が溜まってゆく。今夜こそは禁を解いて、あの滑らかな肌を味わいたい。  ずっと、力になれないまでも邪魔だけはすまいと思って耐えてきた。せっかく無事に合格の報を聞いたというのに、このところ深夜にならなければ帰宅できない日が続いていた。午前二時から求めたのでは、さすがに三井も辛いだろうと遠慮してきたが、今日こそは長い我慢の日々に終止符を打ちたい。いや、打つのだ。 「ただいま」  決意を胸にアパートのドアを開けると、入ってすぐのダイニングキッチンに三井の姿はなかった。続き間になっている居間にもいない。 「風呂でも入ってるのか」  独り言を呟いて靴を脱ぐ。洗面所を覗いてみたが、三井の姿はなかった。 「へんだな。こんな時間に、どこ行ったんだ?」  首を傾げつつ、寝室として使っている和室の襖を開けた。
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