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1走目、下僕は魔王様に逆らえず
昼を告げるチャイムが鳴る。
それがスタートの合図だ。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおっっっっ!!」
走れ走れ走れ走れ走れ―……っ、
走れ僕の足っ!
頬を切る風。視界を過ぎ去っていく、どこまでも同じ風景に、同じ黒い制服を身に着けた人々の姿が映る。
廊下を走るんじゃなぁい! という声が飛んでくる。あの声は確か、2Iの担任のものだ。
2I――、2年I組理系特進科クラスの略称。
そして今、僕が駆けつけなければならぬ『奴』がいるクラスの呼称である。
「ごめんなさぁぁぁあああいいい!!!!!!!!!!」
叫び返しながらも足は止めない。なぜなら、止めたが最後、僕はきっと明日の日の出を見れなくなってしまうからだ。
『一陣』という自身につけられた名の如く、一陣の風になったつもりで階段を駆け上がる。そうして上がった先にある閉まり切ったドアを勢いよく開け放った。
バンッ! という音と息を切らして現れた僕。すでに移動教室から帰ってきていた数人の生徒達がギョッとこちらを見た。
が、飛び込んできたのが僕だとわかると、いつものか、と言った様子で各々していた事に戻っていく。
(アイツは! アイツはいるか!?)
教室内を見まわす。探し人の姿はない。どうやら、まだ教室には帰ってきてないようだ。
「よ、」
良かったぁ~、間にあったぁ――。
そう、ホッと胸をなでおろした瞬間だった。
「5分の遅刻だ、馬鹿者」
ゴンッ、と鈍い音が脳天に響き渡った。
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