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「い……っ!?」
目の前がチカチカと光った。頭を抑えながら、思わずその場にしゃがみ込む。
が、そんな僕を気にした風もなく、容赦なく『奴』は言葉を降り注いでくる。
「いつも言っているだろう。飯は俺が来る前に用意しておけと。貴様の脳みそはこんな事すら覚えられないのか。言語を持たぬ犬ですら、躾られればお座りも待ても出来る。これなら、うちのラッキーの方がまだ優秀だ。爪の垢を飲ませてやりたいぐらいだ。まあ、毎日、きちんと、大人しく、爪切りをさせてくれる、『優秀』なラッキーには、お前に飲ませられる程のムダな爪はないがな」
「あ、浅野……っ」
声がした方―後ろへ、振り返る。
すると、そこには今一番会いたくない、と同時に、今しがたまで探していた相手――浅野が立っていた。
「どうした、下僕。そんな怖い目をして。俺に言われたことが図星で悔しかったのか? それは致し方ないな。なんせ、お前は俺の下僕なのだ。下僕は主人の言うことを聞かねばならない。そういう『約束』だろう? さあ、早いとこ、飯の用意をしろ。それとも、再びこの書物の角をその脳天に刻み込んで貰いたいのか?」
そう言って、手にしている教科書を持ち上げて浅野がにこりと笑う。女子に王子様だと騒がれる、その涼やかな顔だちに合った、爽やかなスマイルで―。
(こ、)
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