1走目、下僕は魔王様に逆らえず

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 僕、『芽呂栖一陣』には2種の嫌いな人種がいる。  ひとつは不良。  だって、見るからに怖い。うちの学校では、不良がよく踊り場や学校裏にたまっていることが多い。僕のようななんの取柄もない平凡的な生徒なんかは、彼らに目をつけられたが最後、まともな学校生活は送れなくなる事は明らかだろう。  もうひとつは、『リーダータイプ』と呼ばれる者達だ。  ほら、クラスに1人はいるだろ? 委員長だとかそういうんじゃないんだけど、クラスの中心的人物、まるでリーダー格のように皆から頼られる、そんなリーダーのような人間が。  眉目美麗。文武両道。  ひとつやふたつ、皆から飛び抜けたものを持つ、そんな人気者。  そういう奴等は基本的に他人からちやほやされる事が多い。  たかが勉強ができる。たかが運動ができる。それだけで皆の人気者。僕が一生懸命友達を作ろうとして、殴られたり、いじめられたり、嗤われたりするその横で、奴等は簡単に人気を手にするのだ。  彼ら程、僕のような底辺域の人間を嗤う奴等はいない。  街中(まちなか)に捨てられたガムを見るような目で、僕等をバカにしてくるのだ。  そして誠、にっくきことかな。  僕の『主人』である浅野央も、その1人なのである。       ****** 「おい。なんだこれは」  2I教室内、窓際列の中央席。  浅野の席があるそこに、その前の空いている席を借りる形でくっつけて簡易テーブルを作り上げる。  その上に持ってきた袋の中身をひとつひとつ並べていると、ふいに浅野が怪訝そうに僕を問いただしてきた。 「なにって、焼きそばパンだけど」  机上に並ぶ焼きそばパン達を見ながら、僕は浅野に返した。  そこに並ぶは、透明なラップシートに包まれた焼きそばパン達。  食堂のおばちゃん達が丹精込めて手作りした、焼きそばパン達だ。  見た目こそ、真空パックも驚きのピッチピチ具合のラップに、もはや包まれているというよりは、そういう拷問器具に締め付けられているのではないかと勘違いするような、それこそ「タスケテ、タスケテ……」と謎の声まで聞こえてきそうな不安な圧縮度に包まれたパンだが、味の方は学校中の生徒達からのお墨付きなのでご安心を。  歴代不動の人気No,1を誇る、食堂のパン商品として、生徒達の間では名の知れた有名商品となっている。  ……って事は、浅野自身もこの学校に通う生徒として、よく知っている筈なんだけど……。  それなのに、「なんだこれは」とは、これいかに。
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