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この次の日から、僕は浅野にこき使われる事となった。
すると、浅野の言う通り、これまで僕の事を腫物の様に扱っていたクラスメイト達は皆、その距離を縮めて来たし、不良達と目があっても絡まれる事はなくなった。
たかが優等生と仲良くなったぐらいで、この変わりよう。後者はさておき、前者に至っては驚き以外の何ものでもないだろう。
……まぁ、それも、浅野と仲良くなりたい生徒達が、僕に媚びを売っているらしいと気づくまでの話だけど。イケメン優等生、滅びろ、マジで。
「確かに。なんでもいい、とは言った。が、しかし、昨日と同じパンを買ってくるバカがどこにいる。普通は、ああ、昨日は焼きそばパンであられたのだから、ここは違うパンにしなければ、と思うものだろう。毎日毎日、同じパンを食べて嫌気のささない人間なんていると思うか」
「別に。僕は毎日同じでもいいけど」
「気を遣え、と言っているのだ、この愚人めが」
浅野が席に腰をおろしながら、やれやれと首を横に振った。
くっ、このわがまま魔王が……っ。
拳をぐっと握る。いや、耐えろ。耐えるんだ僕。そんなことをしたら、次こそ、教科書が脳天に降り注ぐどころじゃ済まないぞ。
チキショー、と心の中で再びハンカチーフを噛み締めた時、「あ、あの、」と気恥ずかしそうな声が、僕の耳に飛び込んできた。
「も、もしよかったらなんだけど……、これ食べる?」
顔をあげると、数人の女子がこちらにやってきていた。
僕らのやりとりを見ていたのだろう。「これ」という言葉と一緒に、サンドイッチが差し出されている。
しかも、コンビニ産の物ではない。可愛いらしい小さなバスケットに入れられた四角いそれは、どう見ても手作りの産物だ。
それが差し出されている。――浅野にだけ。
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