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「ありがとう。でも、それは君達の物だろう? 女性のお昼を奪うだなんて、そんな事はできないよ」
にっこりと、浅野が女子達に笑い返した。
魔王の敬称がつく男とは思えない爽やかな笑みが、その顔を占める。
(げぇっ。出た、王子スマイル)
うぇっ、似非イケメンスマイルに反吐が出そう。
まだ食べてない筈の昼食が、口から出てきそうだ。
が、そんな僕とは反対に、「きゃーっ!」と女子達は手を取りあいながら黄色い声を上げている。
「そ、そうだよねっ。自分で食べないとだよねっ。ごめんねっ、おジャマしてっ」
「こっちこそ、好意を受け取れなくってごめん。でも、君達のその気持ちが嬉しいよ。ありがとう」
去って行く女子達に浅野が手を振る。すると再び、きゃあきゃあと女子が騒ぎ出す。ここはアイドルのライブ会場かなにかか。ここまでくると、嫉妬を通り越して呆れの2文字で感情が埋め尽くされる。
(あーあ、すっかり騙されちゃって……)
今し方の僕に向けての暴言だって彼女達の耳には入っている筈なのに、あの笑顔がそれを帳消しにする。これが俗に言う『イケメンなら許される』というやつだ。世の中絶対間違ってる。
……けど、僕が声を大にしてそれを叫んだとしても、誰も僕の言葉など信じないだろう。
浅野を前にした僕は、彼女達からすればただ置物だ。いや、存在を認識されるだけいい。下手をしたら、空気以下かもしれない。今だって息をする様に、彼女達の目に僕の存在は映っていなかった。
仕方ない。浅野と比べて僕はなんにも持たない人間だ。最近、下僕生活のおかげで少々足が速くなったけど、所詮『少々』レベル。なんでも出来る魔王様の前では虫けらレベルだ。そんなんで、僕如きが魔王様の言い分を覆せるわけもない。
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