第2章

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 4    飯村があの道を通る時間まであと10分。  俺は心の中で手順を反芻していた。  しかし、思考に邪魔が入る。  何故今俺がこの仕事をやらなければならない?  今日までずっと考えてきた。  かつての恋人を殺した人物を殺す。  何かを試されているのか?  それならば、何が正解なのだ。殺せばいいのか?見過ごせばいいのか?  そもそも何のために俺を試す?俺みたいな人間など、たくさんいるではないか。  昔から思っていた。どんなに悪人を減らしても、全体の割合は変わらないのでは無いかと。  100人の悪人がいなくなれば、また別のどこかで100人の悪人が生まれる。  そうやってきたから、そういう摂理があったから、何千年も人間は生きて来れているのでは無いか、と。    だから、俺は自ら死ぬことはしない。  他人には理解不能かもしれないが、どうせ俺が死んでも、また同じようなやつが現れるのなら、俺は誰かが俺を殺すまで。何かが俺を殺すまで。  生きてやろうと、そう思った。
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