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5
巡る思考の中、遠くの方に人影が見えた。まだ誰かは判別できない。
他の人は、何を考え、何を頼りにして生きているのだろう。
少しずつ近付く影。どうやら目標のようだ。自然と体に力が入る。
大事なものを失いたくないなら、大事のものを作らないという選択肢を何故選ばないのだろう。
音を立てないように立ち上がる。目標は確認できた。飯村だ。周りに人はいない。
ふと、道端に咲いてる花に目を留めたことを思い出した。その時の感情は思い出せない。あれは何だったのだろう。
歩き出す。徐々にスピードを上げる。まだ向こうは気付かない。右手でナイフを握りしめる。
手の温もり。あれが佳恵の心の温度だったのか。その時の俺の手は温かかったのか。心の温度はどうだったのか。
飯村が俺に気付いた。が、俺の方が速い。右手をポケットから取り出し、飯村の胸の前へ。
「ウオォォォォ」
無意識に声が出ていた。ナイフは綺麗に胸に突き刺さっている。
飯村の目が「何故?」と訴えている。
ナイフを抜き、もう一度刺す。
飯村がドサリと崩れ落ちた。
無意味に立ち尽くす。涙がこぼれてきた。
殺せた。
俺は人を殺せたんだ。
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