第2章

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 5  巡る思考の中、遠くの方に人影が見えた。まだ誰かは判別できない。    他の人は、何を考え、何を頼りにして生きているのだろう。  少しずつ近付く影。どうやら目標のようだ。自然と体に力が入る。  大事なものを失いたくないなら、大事のものを作らないという選択肢を何故選ばないのだろう。  音を立てないように立ち上がる。目標は確認できた。飯村だ。周りに人はいない。  ふと、道端に咲いてる花に目を留めたことを思い出した。その時の感情は思い出せない。あれは何だったのだろう。  歩き出す。徐々にスピードを上げる。まだ向こうは気付かない。右手でナイフを握りしめる。  手の温もり。あれが佳恵の心の温度だったのか。その時の俺の手は温かかったのか。心の温度はどうだったのか。  飯村が俺に気付いた。が、俺の方が速い。右手をポケットから取り出し、飯村の胸の前へ。 「ウオォォォォ」  無意識に声が出ていた。ナイフは綺麗に胸に突き刺さっている。  飯村の目が「何故?」と訴えている。  ナイフを抜き、もう一度刺す。  飯村がドサリと崩れ落ちた。  無意味に立ち尽くす。涙がこぼれてきた。  殺せた。  俺は人を殺せたんだ。
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