第1章

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 2  それは初めての仕事の時だった。  内容は簡単。  トンネルのようになっている高架下を歩いてくる人物をナイフで刺す。確実に心臓部分を2度刺す。  ただそれだけのことだった。  指定された時間の少し前に現場近くに身を潜めた。こちらからトンネル内は見えているが、向こうからは見えない位置。ジョギング姿の格好で待機していた。  時間通りにその人物が通らなければ計画は中止。他人が通っても中止。その他不具合が出た場合、そのままジョギングのふりをして走り去ればいいという内容だった。  時計は午後7時58分。予定時間まであと2分。息を殺して待った。  静寂が訪れる。上着のポケットの中のナイフを確かめる。  微かに足音が聞こえた。トンネル内からなので、響いて聞こえる。目を凝らすと、目標の人物なのが分かった。  俺はフードをかぶり、軽くジャンプをして走り始めた。その人物まで約50メートル。少し自分の鼓動が気になる。  予想以上に鼓動が邪魔だ。  あと30メートル。向こうはこちらを気にしていない。絶好のチャンスだ。  あと10メートルになったらナイフを取り出し、相手の胸を刺せばいい。頭の中でシミュレーションする。  あと20メートル。
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