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司会者が合図を送ると、舞台に並んだ彼らは一斉に液体で満たされたガラスケースの中に飛び込み、全身を液体の中に沈めた。同時にスタッフ達によるガラスケースの施錠が行われた。取り外された強化ガラスの蓋をガラスケースに被せ、その周りを溶接してしまう。
何も知らなければ奇妙な光景にしか見えないだろう。液体で満たされたガラスケースの中に潜った彼らを閉じ込めているようにしか。この番組がレギュラーになる以前ならば、警察が動くほどの騒ぎになっていた。また、そうでなくても、彼らが頭まで浸かっている液体もまた普通ではない。
「今回、用意したのは強塩酸溶液になっています。このように、本来なら肉も骨もあっという間に溶けてしまいます」
厚手のゴム手袋をはめ、見せて売っていた骨付き肉を小さなガラスケースに放り込むと、それは数十秒で原形を無くし消えた。
強塩酸の溶液で満たされたケースに浸かっている彼らは危険を承知で潜り続けていた。密閉されたガラスケースの中では彼らが身に付けていた水着の方が先に溶けてしまい。その全身が露わになる。番組のスタッフは馴れた手つきでそれらが人の目に触れないようモザイクをかけ巧みに隠す。
青年が気にしていたモザイクとは、このことだった。彼らにとって、自分達よりも溶ける水着の方が心配だったのだ。
なぜ、このようなおかしな番組がレギュラーとして四十年経った今も、放送されているのか。それには、理由があった。
ことの起こりは、テレビの放送が始まってから半世紀をこえたあたりから各局で見られるようになったマンネリ化である。ドラマもマンガも、バラエティーもどれもが十年以上も放送しているようなモノであるが、それに類似する番組の延長みたいなものばかりで、人々の嗜好がテレビからネットに移ろうとしている時代であった。そんな先行きが見えない時代で、始まったのが『長寿番組』であった。
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