プロローグ

2/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
僕の目線が、今より50センチ以上低かった頃の話。 僕がまだわんぱくな少年だった頃の話。 もう20年位前になってしまった話だ。 僕は田舎の祖父母の家に帰省していたのを覚えている。 大自然に囲まれたそこは、当時の僕にはとても新鮮だった。 だから、野原を駆けたのだ。 駆けて、駈けた。翔るように駆けた。 坂を上って、下って、登って、降りて。 小石に気づかず、盛大に転んだ。 目の前の景色が、霞んで、ぼやけて、見えなくなって、 手の甲に、涙が落ちた。 突然、何か──誰かが駆け寄ってきた。 差し伸べられた手を、すがるように握って、 僕の身を案じる言葉に、己の無事と感謝を述べ、 そういえば、あれが僕の初恋だったのかもしれない。 立ち上がった僕の見た景色は、依然としてはっきりとしなかったけれど、 当時の僕と同じくらいの背丈の、麦藁帽と白いワンピースの似合う少女があって、 青い空と、濃い緑が美しい丘だったのは、はっきりと記憶にある。 ひとつの黄色い大輪の花も、当然思い出の中にあった。 そして時は流れ、 僕は──
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!