5人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
僕の目線が、今より50センチ以上低かった頃の話。
僕がまだわんぱくな少年だった頃の話。
もう20年位前になってしまった話だ。
僕は田舎の祖父母の家に帰省していたのを覚えている。
大自然に囲まれたそこは、当時の僕にはとても新鮮だった。
だから、野原を駆けたのだ。
駆けて、駈けた。翔るように駆けた。
坂を上って、下って、登って、降りて。
小石に気づかず、盛大に転んだ。
目の前の景色が、霞んで、ぼやけて、見えなくなって、
手の甲に、涙が落ちた。
突然、何か──誰かが駆け寄ってきた。
差し伸べられた手を、すがるように握って、
僕の身を案じる言葉に、己の無事と感謝を述べ、
そういえば、あれが僕の初恋だったのかもしれない。
立ち上がった僕の見た景色は、依然としてはっきりとしなかったけれど、
当時の僕と同じくらいの背丈の、麦藁帽と白いワンピースの似合う少女があって、
青い空と、濃い緑が美しい丘だったのは、はっきりと記憶にある。
ひとつの黄色い大輪の花も、当然思い出の中にあった。
そして時は流れ、
僕は──
最初のコメントを投稿しよう!