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“その日”は思った以上に早く来た。
玄関前で腕を組み壁に寄り掛かる銀は、隣の家の玄関のドアが開くと顔を向けた。
「……銀二、」
凛香は少し驚いたように目を開き、嬉しそうに笑う。
銀二は寄り掛かった壁から体を起こすと、凛香の方へと歩いて行った。
「…………、」
「なぁに?お見送り、してくれるんだ?」
「っ、は、はぁ?てめ、なに調子乗ってんだよ」
「あはははっ、図星だ」
「たまたま、だよ。たまたま」
「あははは。そうだって言えばいいのに、素直じゃないねー」
「うっせー」
「はいはい、すみませんね」
言葉とは裏腹に、凛香は目を細めて微笑んだ。
銀二はちらりとだけ見て、目を逸らせた。まともに顔が見られない。
これからしばらく会えないと思えば思うほど、どうしても凛香を見ることができなかった。
「忘れ物、すんなよ」
「うん、大丈夫。銀二と違うから」
「おい」
「まぁ、何か忘れたって、向こうにはお店もたくさんあるんだし」
「そ、それはそうだけどよ。あっちとは性能が違うだろ、性能が」
「性能って、何忘れるつもりなの」
「知らねーよ!なんかあんだろ、忘れそうなやつ」
がしがしと頭を掻く銀二を、凛香はじっと見つめてから目を伏せた。
「あぁ、そうだね。ひとつ、忘れてた」
「は?それ、さっさと取りに行けよ」
「うん、じゃあ、遠慮なく」
凛香は銀二の服の胸元を引っ張ると、背伸びをし、ちゅっと小さく音を立ててキスをした。
「…………っ、」
「一番大事なもの忘れてたから」
固まる銀二に凛香はにかっと笑って、つかんだ胸元をぽんと押す。
徐々に真っ赤になっていく銀二を見つめ、楽しそうに笑った。
「あ、そうそう、銀二」
「っ、」
「これから先、いろんな女の子と付き合っていくだろうけどさ」
「っ、」
「私の事、待っててもいいよ」
凛香が悪戯に瞳をきらきらとさせて覗き込んで、ようやく、銀二は我に返った。
「いつ帰ってくるか、わからないけどね」
「てめー、俺様を待たせるとはいい度胸だな」
「あら。ちょっとは待っててくれるんだ?」
「うぬぼれんな、」
今度は銀二が凛香の後頭部に手を伸ばし引き寄せる。
そして、噛みつくようにキスをした。
「“ずっと”だ、ばーか」
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