アイツ

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* “その日”は思った以上に早く来た。 玄関前で腕を組み壁に寄り掛かる銀は、隣の家の玄関のドアが開くと顔を向けた。 「……銀二、」 凛香は少し驚いたように目を開き、嬉しそうに笑う。 銀二は寄り掛かった壁から体を起こすと、凛香の方へと歩いて行った。 「…………、」 「なぁに?お見送り、してくれるんだ?」 「っ、は、はぁ?てめ、なに調子乗ってんだよ」 「あはははっ、図星だ」 「たまたま、だよ。たまたま」 「あははは。そうだって言えばいいのに、素直じゃないねー」 「うっせー」 「はいはい、すみませんね」 言葉とは裏腹に、凛香は目を細めて微笑んだ。 銀二はちらりとだけ見て、目を逸らせた。まともに顔が見られない。 これからしばらく会えないと思えば思うほど、どうしても凛香を見ることができなかった。 「忘れ物、すんなよ」 「うん、大丈夫。銀二と違うから」 「おい」 「まぁ、何か忘れたって、向こうにはお店もたくさんあるんだし」 「そ、それはそうだけどよ。あっちとは性能が違うだろ、性能が」 「性能って、何忘れるつもりなの」 「知らねーよ!なんかあんだろ、忘れそうなやつ」 がしがしと頭を掻く銀二を、凛香はじっと見つめてから目を伏せた。 「あぁ、そうだね。ひとつ、忘れてた」 「は?それ、さっさと取りに行けよ」 「うん、じゃあ、遠慮なく」 凛香は銀二の服の胸元を引っ張ると、背伸びをし、ちゅっと小さく音を立ててキスをした。 「…………っ、」 「一番大事なもの忘れてたから」 固まる銀二に凛香はにかっと笑って、つかんだ胸元をぽんと押す。 徐々に真っ赤になっていく銀二を見つめ、楽しそうに笑った。 「あ、そうそう、銀二」 「っ、」 「これから先、いろんな女の子と付き合っていくだろうけどさ」 「っ、」 「私の事、待っててもいいよ」 凛香が悪戯に瞳をきらきらとさせて覗き込んで、ようやく、銀二は我に返った。 「いつ帰ってくるか、わからないけどね」 「てめー、俺様を待たせるとはいい度胸だな」 「あら。ちょっとは待っててくれるんだ?」 「うぬぼれんな、」 今度は銀二が凛香の後頭部に手を伸ばし引き寄せる。 そして、噛みつくようにキスをした。 「“ずっと”だ、ばーか」
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