316人が本棚に入れています
本棚に追加
「銀ちゃーん。こらー。銀二ー。そろそろ昼休み終わりだぞー……だめだ。起きない」
「ライト。こういう時はこうするんだ」
――――バシッ!!
「ッ!!い、……てぇ」
「あ、起きた。ブッシーって意外とこういうことするよね」
「お前や大虎がやらないからな。こういうのは必然的に俺の役割になるだろう?」
「ははっ!」
明るい声と低い落ち着いた声を交互に聞きながら、銀二はゆっくり顔を上げた。
「よだれを拭け、よだれを」
ブッシーと呼ばれた低い声の男が投げたティッシュボックスは、目の前のローテーブルの端に着地をし、それを2、3枚抜き取って頬を拭う。
ゆっくり瞳を動かして、この場所を確認した。
広い部屋に所狭しと並ぶ棚にはファイルや資料がずらりと並び、部屋のドアを除く3方向を背に、それぞれ大きめのデスクが3台鎮座している。
銀二がその中心にあるソファに座ったまま傍らを見上げれば、二人の男が自分を見下ろしながら苦笑を漏らしていた。
夢か。
ぼーっとした頭のまま、そう、心の中でつぶやいた。
ずいぶん懐かしい夢を見ていた。
今でもはっきりと覚えている。
傍らに座る存在感。
自分を見上げる猫目の輝き。
たった一つだが年上としての余裕ぶった流し目と、屈託なく笑う笑顔。
銀はそのどれもが夢だったことに小さくため息を吐き出した。
それからぐっと伸びをすると自然と声が出る。
「んーーーーっ!!……だぁっ!!」
気合を入れるようにしつつ体の力を抜けば、頭の中がすっきりしてきた。
「ようやく覚醒?」
ライトと呼ばれていた方の男が少しいたずらに銀を振り返る。
ブッシーと呼んだ男の座るデスクの傍らに立ち、視線を書類から銀二へと向けていた。
よいしょと腰を持ち上げてソファから立ち上がる。
銀二は両腕を頭上へ持ち上げて、もう一度ぐっと伸びをした。
廊下からヒールの音が響き、ためらいもなくドアが開かれる。
その足音はほとんど速度が緩むことなく部屋に入ってきた。
「あら、銀ちゃん。珍しく昼寝でもしてたの?」
足音の主、芽衣が自分のデスクに向かいながらそういうと、ライトがからっと笑い声をあげた。
「芽衣さん、せいかーい!よくわかったね」
ライトの言葉に返事するように、芽衣はツンツンと自分の頭を指さした。
最初のコメントを投稿しよう!