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こいつは最早、女じゃねーな。
銀二は下唇を押し出すと、フイと顔をそむけた。
「銀二。ほら、これ。お弁当!」
胡坐をかいた膝の上に乗せられたそれに視線だけ向ける。
かわいらしい袋に顔が引きつりつつ、こういうところは女だと認めてもいいとちらりと思った。
「もう昼飯食ったし」
「……ほら、お弁当」
「だから食ったっつってるだろーが」
「あんたねー。毎日毎日コンビニのおにぎりじゃお腹すくでしょーよ」
「うっせーな。てめーは俺のかーちゃんかよ」
視線をあげて見た凛香は、にっこり有無を言わさない完ぺきな笑顔で、こめかみに青筋を浮き上がらせていた。
「あんた、私がせっかくこうして持ってきてあげてるのに、好意を無駄にする気!?私がどんな思いでいつもより早く起きて、銀二のことを思って栄養とか考えてるの、わかってる!?」
「てめーはいかにも自分が作ってきたような口ぶりで言うな!」
銀二は膝に乗せられたかわいらしい袋から中身を取り出しドンと置く。
そしてキッと凛香を睨みつけた。
「コンビニ弁当じゃねーか!!しかも、今日は普通の和食弁当なのに、箸じゃなくてスプーンってなんだよ、スプーンって!!しかもアイスのやつ!!!」
「でも長めの方にしてもらったんだから、その辺の配慮に感謝しなよ」
「何が配慮だ!ぜってー、わざとだろ!!普通コンビニで弁当につけるのは箸だろ!!それをわざわざ断わってのコレだろ!!」
「ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん吠えないでよ。ったく、銀二は心が狭いねぇ。ノリツッコミするくらいの余裕はないものかね」
言いながら凛香がどこからか箸を取り出してそっと弁当の上に乗せる。
そして隣に腰を下ろした。
「しょーがない。これは私が食べよう。お母さんに作ってもらったお弁当食べてお腹いっぱいだけど、これ捨てるのもったいないし」
はぁ、とため息を吐き出して弁当を持ち上げた凛香の手から、銀二はそれを取り上げた。
「……ぎん、」
「スプーンじゃなくて、箸、よこせよ」
「銀二、食べてくれるの?」
「もったいねーだろうが。俺はそういうところちゃんとしてるんだよ」
視線を合わさずにぱくぱくと弁当を食べだした銀二に、凛香はクスリと小さく笑った。
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