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「何やって」
「もうっ、これ以上苦しめなくていいじゃないですか!」
「このまま悪鬼としてここにいる方が苦しいのがわからないか!?」
「だけどっ、こんなやり方! もっと他に方法が――」
あるかもしれない。そう叫ぼうとしたとき、足元に暖かいものを感じて世莉は自分の足元を見た。そこには1匹の猫がいて、世莉の足にすり寄っていたのだ。そしてほかの犬や猫たちも倣うように世莉にすり寄って……。伝わる暖かさに、世莉の目から涙が自然と零れ落ちてきた。
「……ごめん、ごめんねぇ?」
膝を折って両手を広げると、猫たちは自らその腕に飛び込んで世莉の胸にすり寄った。そして世莉の涙が一匹の猫に触れたとき、あたたかな光がその猫を包んだ。それは周りの猫や犬たちにも広がって、光はどんどん強さを増していく。
「すごいな、お前」
「……え? 私、なにも――」
していないはずなのだけど……。
「別れの言葉を」
「……え?」
「自ら黄泉へ行こうとしてる。今はお前の思いがこいつらをここにつなぎとめてるんだ。だから、別れを言ってやれ」
「……」
みんなの目が世莉を見ている。みんな可愛く、幸せそうに見えた。
「ごめんね。次こそはみんな幸せになって。きっとなれるから、だから――」
さよなら。
そう心で呟くと、光は淡くなり猫たちの輪郭もふわりとぼやけていく。そして神威がカーテンを開けると傾いた太陽の光が彼らを照らして――。
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