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鈍色の風が吹いていた。  五年ぶりに降りたったその町の風景は、浅野美湖の頭の中にあった記憶とはだいぶかけ離れたものだった。  駅前の商店街は行けども行けどもシャッターが降ろされ、五年前は四階建ての大型スーパーがあった場所には駐車場とスポーツジムができていた。通りは休日にもかかわらず、がらんとしていて、病院の送迎バスから降りてきた老人たち数人と部活帰りの高校生がひとり自転車で通り過ぎただけだった。  その町は美湖の実家があった。県内では県庁所在地と並ぶ栄えた町で、美湖の五十代の両親と兄夫婦、そして美湖にとっては甥にあたる三歳児の家族が住んでいる。と言っても生まれ育った故郷ではなく、美湖が大学進学を機に東京で一人暮らしを始めたのと同じタイミングで両親が移り住んだのだ。美湖が育ったのは国道沿いにある巨大なショッピングモールが唯一の文化的発信地の、人口の少ない寂れた町だった。小学生のとき、「二十年後の自分へ」という作文を書かされたが、美湖は一行目に「この町には何年帰っていないですか?」と書き、担任に直されたことを今でも覚えている。バイパスを一本中に入れば、壊れて砂利道となってしまったコンクリートの道が何年も舗装されずそのままになっているような町だった。  二十分に一本の市内循環バスに乗り込み、三つ目の停留所で降りる。特に感慨もない美湖の現在の実家は閑静な住宅街にある。
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