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 そんな母と入れ替わりに、義姉が取り込んだ洗濯物を持って部屋に入ってきた。例の京ちゃんだ。 「あ、美湖ちゃん。来てたんだ」 「……ご無沙汰してます」  ソファに座ってテレビを見ていた美湖のすぐ脇で、義姉は洗濯物を畳み始めた。微妙な居心地の悪さを感じ、美湖はそれとなくテレビの音量を上げた。  義姉はこの地域の出身ではなく、転勤で隣町へ来ていて、そこでできた友人の紹介で兄と知り合ったらしい。気立てもよく、兄は親戚一同からいい人を捕まえたとしきりに褒められていた。両親も義姉を気に入っていて、心の内はわからないものの、嫁姑の仲もそれなりに円満なようだった。 だが、美湖はそんな義姉が苦手だった。優秀な義姉に引け目を感じていたのでは断じてない。  突然、スーパーで売られているような安物のグレーのストレッチ素材のパンツが視界を横切り、そのすぐあと、ソファが重さでゆっくりと沈みこんだ。「どっこいしょ」という小さな声がやたらと耳の奥にこびりつく。 「美湖ちゃん、なんかあったん?」 「まぁ、いろいろ」 「そっかぁ」  隣に座った義姉はどうでもよさそうに相槌を打った。顔の大きさに対して些かバランスの悪い大きな目をぎょろぎょろと動かしながら、手元のスマートフォンをいじっている。  働き者でよく気の遣えるできた嫁。それが義姉の表の顔に過ぎないことを、兄が両親に紹介するために家に連れてきたときから美湖は直感的に見抜いていた。  義姉はうまく隠しているものの、実際は他人と自分を絶えず比較し、自分がいかに周囲よりも優れた人間であるかということを周りの人間にそれとなく主張する一面があった。心の中では誰よりも人からちやほやされたいという欲求を抱えている。義姉のプライドは山のように高く、そして自尊心は異様に低い。義姉の顔の真ん中についた鼻のように。  他人の不幸は蜜の味。それが義姉の本性だ。そして東京で働いていて、自分より容姿が圧倒的に秀でている義理の妹の不幸より甘い果実などないだろう。
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