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てっきり眠っているものだと思っていた。いきなり手を握られ、思ってもみない事を言われ、私は夫を見つめ返した。
夫は笑みを湛えたまま、しみじみと言う。
「お母さんには苦労をかけたなぁ」
「……とっくに愛想を尽かされてると思ってたわ。お父さんこそ、私と一緒にいて辛かったでしょう?」
「何言ってる。おまえの伯母さんに散々頼み込んで、やっと会わせてもらったんだ」
「え?」
そんな話は初めて聞いた。唖然とする私に、夫は今頃になって当時の経緯を話してくれた。
当時の私は、毎朝洗濯物を干しに庭先に出ていた。それを仕事で山に向かう夫が、通りすがりに毎日目にしていたのだ。夫は私に一目惚れしたのだと言う。
会わせてくれるように伯母に頼んだら、最初は断られたらしい。男に裏切られて傷ついているから、そっとしておいて欲しいと。
それでも諦めきれなかった夫は、一度でいいから話がしたいと何度も頼んだ。
無口で口べたな夫にしては、相当頑張ったのではないだろうか。
とうとう伯母も根負けして、私に話を通したのだ。
「嫁に来てくれると聞いた時は小躍りしたよ。辛いわけないだろう。一緒にいてくれるだけで幸せだった」
夫は一層目を細め、照れくさそうに笑った。
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