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俯きがちに歩くユキハルは左頬に柔らかな光を感じて、かすかに目をあげた。ロイヤルパヴィリオンが闇の中で金色に照らし出されている。
かつて時の皇太子、後のジョージ4世が離宮として建てたというエキゾチックな外観の王宮跡だ。初めて見た時はそれなりに目を惹かれたが、今はチラと横目で眺め、通り過ぎるだけだ。
再び目を落として歩きだしたユキハルの肩に、タンクトップ姿の男が軽くぶつかり、Sorryと低く言ってすり抜けた。横には分厚いジャケットを来た青年が煙草を吸いながら歩いている。
この街の住人は、気温にも服装にも相当に無頓着だ。タンクトップはジャケットの手から煙草を奪ってくわえると、その腰を軽く引き寄せた。
ふと目の裏に、翻る黒髪と色違いの目が浮かんだ。
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