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「Hollow Garden」はすでに席の七割ほどが埋っていた。ユキハルはラガーを一杯買って、出来るだけ奥まった席を選んで座った。
このパブを見つけたのは、ひと月ほど前だ。初めは一人で座ることに抵抗があったが、店内は暗いし、客たちはそれぞれの世界に没頭しているので、今では彼らの遊戯を盗み見て楽しむ余裕さえ出来た。
男たちが手を絡め、視線を絡める場所――。
「知ってたら来なかった……、か」
知らず自嘲の笑みが零れる。
ラガーを一気に半分まで飲み乾すと、いつの間にか目の前の席に、縦横充分の黒人が身を乗り出すようにして座っていた。暗がりの中でそいつの大きな目の白い部分だけが、ギラギラと輝いてこちらを品定めしている。
こいつにやられたら死ぬな。
ユキハルは煙草を取り出すフリをして、目を逸らした。
「日本人かい」
身体に似合わぬ高めの声で、そいつが訊いた。ユキハルは気のない声で、ああ、とだけ答えた。
「処女だろ、あんた」
思わずキッとなって、そいつを睨みつける。それからすぐ、そんな反応をしてしまったことを悔やんだ。
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