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「……俺はタチだ。掘られる趣味はない」
ヒュウッとそいつは口笛を鳴らした。
「いいねえ、あんたになら掘らせてやってもいいぜ」
言った瞬間、大笑いをしている。ユキハルはグラスを持って立ち上がった。頬が熱くなっているのが判る。
またウソをついた。ヤツにそれを見透かされたのがたまらなく屈辱だった。
所詮、掘ったことも、掘られたこともない、ただの傍観者。
冷めた目を装い、焦れた身体を持て余すだけだ。
反対側の奥の席について、チラとそいつを見たが、追って来る様子はなかった。動揺から無意識に煙草に火をつけようとして、舌打ちをする。禁煙のパブなんて、絡みのないゲイ映画くらい味気ない。
ライターを放り出し、重い頭を頬杖で支えながら、ユキハルは浅い呼吸を繰り返した。不必要に音量をあげたUKロックが、いちいちカンにさわる。
なんだかやけに目が乾いた。うたた寝のせいで風邪をひいたのかもしれなかった。
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