1

4/28
248人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
 コーチと呼ばれる長距離バスの、ヒースロー空港までのチケットを買うと、出発までの時間をつぶすため、近くのビーチまで出た。  お世辞にも奇麗とは言いがたい海の中で、酔狂な英国人たちがまだ数名泳いでいる。  夏を惜しむにしても、生白い彼らの水着姿はあまりに無粋だった。  薄ら寒い光景から目をそらし、ユキハルは波打ち際を歩いた。その後ろでエミがあッと小さく声をあげ、ユキハルの袖を引いた。  彼女が指す方を見ると、防波堤に寄りかかり、男二人がキスをしていた。二人とも短髪で、浅黒く焼け、同じような骨格を持った堂々たる体躯の男たちだ。 「うそ、マジで? あたし初めて生で見たー」  エミが声をひそめてはしゃぐ。  ユキハルは血が逆流するのを感じた。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!