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「なに、アレ。浮浪者?」  エミの不機嫌な声に、ハッと我に返る。言われてみれば、確かに青年の姿は小汚かった。  細身の身体に、ダラリと地面まで垂れそうな、くすんだ灰色のポンチョのようなものを着ていた。同系色の麻のズボンも、よれて膝のあたりが飛び出ている。  連れている黒い犬も、いい加減埃まみれで茶色にくすんでいた。この辺りで毎日のように見かける、ホームレスのスタイルと何も変わらない。  けれどユキハルの意識に飛び込んできたのは、その色違いの、神秘的な両眼だけだった。  人の耳元で、犬の吠え真似をしたその青年は、もうすっかりこちらの存在など忘れてしまったかのように、デタラメな歩調で歩いていってしまう。  焦燥に似た感覚が、腹の中で粟立った。
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