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煤けた曇り空を隠すように立つ高層ビル群。
そのひとつ、鏡面ガラス貼りの建物の、中ほどの階層の一角にその部屋はあった。
エレベーターの扉が開き、大量の書類を抱えた青年が姿を現した。フロアに点在するソファに座る女性社員に軽く会釈しながら、突き当たりにあるドアに向かい、書類を落とさないように気を使いながらノブを下ろして部屋に入る。
「只今戻りました。」
手近にあった机にドサッと書類を置き、奥にいる人物に声をかけた。
「あらあら、おかえりなさい、成嶋くん。お疲れ様。」
ゆったりと席を立ち、成島と呼ばれた青年に近寄ったその人物は、温かな笑顔を彼に送る。彼より一回りほど年上の、穏やかな印象の女性だ。
「来週配る予定のチェックシート貰って来ました。…途中で人にぶつかって、ぶちまけちゃったけど…」
申し訳なさそうに言う成嶋に、ふふ、と笑を零す。
「…そういえば、藤井さん、待ち合いに女子社員が結構いたんですが…?」
「ああ」
藤井と呼ばれたその女性が、手のひらを軽く打ち合せて答えた。
「今日は先生がいらっしゃってるんですよ、嘉瀬先生が。」
「なるほど。」
首を竦めるようにして、成嶋は笑った。
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