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「メンタルケア担当医師 嘉瀬 晃志郎」
白衣の胸ポケットに取り付けられたネームプレート、そこから視線をゆっくりと上に持っていく。
白衣の下は濃い色のラフなTシャツ、そこから伸びるスラリとした首筋、少し薄い唇の、向かって右下の黒子が印象的だ。目鼻立ちの整ったシャープな風貌を、小さめハーフリムのメガネが和らげている。
しばらくパソコンのディスプレイに向けられていた彼の視線が、キーボードを叩く音が消えると同時にこちらを向いた。
「今日はこの辺でいいでしょう。どうぞお大事に。」
小首をかしげながら微笑む嘉瀬。
相談者席に座っていた女性が何か言いたげにしたその時、
「お疲れ様でした。また何かあったら連絡下さい。」
成嶋が声をかけて扉へと促した。
ムッとした表情で彼を一瞥をして、彼女は部屋を後にする。
しばしの沈黙の後、嘉瀬が大きくため息をついた。
「 …話、長い!」
「…まぁ…」
足を組み、ドカリと背もたれに背中を埋めて脱力気味に話す嘉瀬に、成嶋が反応する。
「…っていうか、何時間話してた?!しかも世間話に愚痴ばかりで、なに?僕をカレシか何かと勘違いしてない?!というより、お仕事しないんですかお仕事!」
がばっと向き直り、成嶋に詰め寄る勢いでまくしたてた。
「それを聞くのが先生のお仕事でしょう。…まぁ、途中からイライラしてたのはわかってましたけどね。貴方は気分を害すると、左口の端が少し上がる癖がありますから。」
「それだよ、それ」
成嶋の鼻先に、ピシリと人差し指の照準を合わせる嘉瀬。
「駆け出しの心理カウンセラーのクセに生意気だよね?仮にも本職の僕に向かって、心理読むようなことするんだからね?」
メガネの奥の瞳に厳しい表情が宿る。
困ったように微笑む成嶋。
「…面倒くさいって思ったよね?今」
嘉瀬の口の左端がつっと上がった。
「まぁまぁ、そろそろお茶にしませんか?」
椅子から立ち上がり、さらに詰め寄りかけた嘉瀬の行動を遮るように、藤井が急須と湯飲みを乗せた盆を持って相談室に入ってきた。
「玉露のいいのが手に入ったんですよ。」
すまなそうに視線を投げる成嶋に、藤井が軽く微笑んでみせた。
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