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第一話
このところ、何か不調だった。
なにか、頭から糸で吊るされたようなフワフワした感覚が続いていて、注意力も散漫だったらしい。
だから気付かなかった。そいつが目の前に現れたのを。
バサバサバサ!
何かにぶつかった感触とともに、大量の紙の束が床に散らばってはじめて、オレは我に帰った。
「うわっ!ごめんなさい!」
まだ 呆然としていたオレの耳に、弾けるような声が飛び込んでくる。前を見やると、落ちた紙の束を必死に拾い集める、自分より少し小柄な青年がいた。
ちょっと気弱そうな風貌で、まだ入社して間がない人間なんだなと感じた。なんとなくしゃがみこみ、拾うのを少し手伝ってやる。
「すみません。僕、そそっかしいんで、いつもこんなヘマやっちゃうんです。」
申し訳なさそうにはにかみながら、彼はオレが差し出した紙の束を受け取った。
「ありがとうございます……」
目が合った瞬間、彼の瞳に真剣な光が過った気がした。
「?…何か?」
怪訝に思い、思わずオレは彼に疑問を口にする。
彼の 目に柔らかい光が戻った。
「あ、いいえ。…ただ、酷く疲れてるように見えたので。」
フワリと笑うと、彼は軽く頭を下げ 、大量の書類の束を抱えて歩き去った。
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