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始まりの物語
「諸君、静粛に」
その人物が壇上に立ち、マイクに向かってそう言うと、
沢山の人が騒めいていた会議室は一瞬で静まり返った。
グレーのスーツに身を包み、いかにもお偉いさんといった風体と
雰囲気を醸し出す初老の男は、静かになった部屋全体を
ゆっくりと見回し、言葉を続けた。
「それではこれより、第二移民惑星開拓プロジェクトの
全体ブリーフィングを行う」
「全体ブリーフィングといっても、詳細はこの後に担当部署別で行うので、
私の話はただの挨拶だと思って気楽に」
「だが決して、軽くは考えないで聞いてほしい」
男はここで一度言葉を切り、周りを見る。
誰も彼もがじっと彼を注視して、次の言葉を待っている。
男はその様子に満足し、話を続けた。
「先日、我々を乗せたこの宇宙船は、新たに発見された居住可能な惑星に
向けて飛び立った。その目的は言うまでもなく、その惑星の開拓と移民だ」
「ここに集まってもらった諸君らは、その道のエキスパートばかりだ。
そんな諸君らの前で今更こんな話をするのも何だが、
あえて話させてもらう」
「なぜ地球は人の住めない星になってしまったのか?」
「なぜ人類は、死と危険に満ちたこの深淵なる宇宙へと、
大いなる犠牲を払ってまで進出しなければならなかったのか?」
「核戦争?原子炉の暴走?宇宙人の襲来?巨大隕石の落下?」
「否!フィクションの世界ではそれらが何度となく地球を脅かしたが、
現実はそんなドラマチックな物ではなかった」
「それは、人類の無知と傲慢とモラルの欠如だ!」
「それらが数えきれない悪手を打ち、次々と環境を破壊に追い込んだ。
途中で気がついてももう遅い、すでに地球は回復不能なほどの
ダメージを受けてしまっていた」
「このまま絶滅するしか無いと思われた人類だったが、
運よくテラフォーミング無しで即移住可能な星、今ここにいる皆の
故郷である 惑星エデンを発見、多大な犠牲を払ってなんとか
その新天地への移住に成功した」
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