10.秘密

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翌日、 「土岐津、昨日は悪かったな。」 エレベーター待ちをしていたら、田中さんが俺に挨拶もそぞろに謝ってきた。 「…おはようございます。」 「昨日はさ、なんか先輩面したわ。ごめんな。…でも、まぁ、高輪とも仲良くやれよ?」 田中さんの表情に昨日とうって変わって余裕を感じる。 俺はというと、頭に血がのぼるのがわかる。 なにが"仲良く"だ。 自分のものになった途端、朗らかになりやがって。 「…へぇ、俺と高輪と仲良くやってもいいんですか?」 先輩に媚へつらう声色ではなく、嫌味っぽさ丸出しの素の自分がでる。 「は、」 「まぁ、俺は別に今まで通りしてても全く問題ないんで。じゃ、俺、経理寄らなきゃなんで失礼します。」 含みのある言葉を吐いて立ち去った。 「おーい、高輪は今日は遅刻か?」 課長のでかい声がフロアに響いた。 田中さんがなぜか理由を知っている。 あいつは会社大好き人間だから、今まで遅刻なんて一度もなかった。 「遅刻して申し訳ありませんっ!」 高輪が飛んで入ってきた。 いつもと様子が違う。 メガネじゃなく、コンタクトレンズになっている。 フロアが少し騒つく。 「おい、高輪、メガネよりそっちの方がいいじゃないか!スッキリして見えていいぞ。」 課長がガハハと笑いながら高輪の肩をバシバシ叩く。 「あ、はい、ありがとうございます。」 高輪がチラリと田中さんの方を見て申し訳なさそうにしている。 田中さんは少しムッとしたような顔で高輪を見ていた。 「なあ、高輪って結構イケメンだったのな。」 俺の隣のデスクの篠田がヒソヒソ声でおちょくってくる。 「…あ?話しかけんな。」 「そりゃねーだろー。昨日だってあれからお前帰って盛り下がるわ、盛り下がるわ。あのあとみんなすぐ解散しちゃったんだぜー。」 そんなこと知ったことか。 無視してパソコンを睨みつける。 高輪の目が大きいことなんて前から知ってるし、顔が整ってるのだってわかりきっていることなんだよ。 イライラする。 俺ってこんなに短気だったっけ。
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