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翌日、
「土岐津、昨日は悪かったな。」
エレベーター待ちをしていたら、田中さんが俺に挨拶もそぞろに謝ってきた。
「…おはようございます。」
「昨日はさ、なんか先輩面したわ。ごめんな。…でも、まぁ、高輪とも仲良くやれよ?」
田中さんの表情に昨日とうって変わって余裕を感じる。
俺はというと、頭に血がのぼるのがわかる。
なにが"仲良く"だ。
自分のものになった途端、朗らかになりやがって。
「…へぇ、俺と高輪と仲良くやってもいいんですか?」
先輩に媚へつらう声色ではなく、嫌味っぽさ丸出しの素の自分がでる。
「は、」
「まぁ、俺は別に今まで通りしてても全く問題ないんで。じゃ、俺、経理寄らなきゃなんで失礼します。」
含みのある言葉を吐いて立ち去った。
「おーい、高輪は今日は遅刻か?」
課長のでかい声がフロアに響いた。
田中さんがなぜか理由を知っている。
あいつは会社大好き人間だから、今まで遅刻なんて一度もなかった。
「遅刻して申し訳ありませんっ!」
高輪が飛んで入ってきた。
いつもと様子が違う。
メガネじゃなく、コンタクトレンズになっている。
フロアが少し騒つく。
「おい、高輪、メガネよりそっちの方がいいじゃないか!スッキリして見えていいぞ。」
課長がガハハと笑いながら高輪の肩をバシバシ叩く。
「あ、はい、ありがとうございます。」
高輪がチラリと田中さんの方を見て申し訳なさそうにしている。
田中さんは少しムッとしたような顔で高輪を見ていた。
「なあ、高輪って結構イケメンだったのな。」
俺の隣のデスクの篠田がヒソヒソ声でおちょくってくる。
「…あ?話しかけんな。」
「そりゃねーだろー。昨日だってあれからお前帰って盛り下がるわ、盛り下がるわ。あのあとみんなすぐ解散しちゃったんだぜー。」
そんなこと知ったことか。
無視してパソコンを睨みつける。
高輪の目が大きいことなんて前から知ってるし、顔が整ってるのだってわかりきっていることなんだよ。
イライラする。
俺ってこんなに短気だったっけ。
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